できる医療を尽くしながら、“その人らしさ”を守る
先日、末期がんの患者さんと、今後の治療方針についてお話をしていたときのこと。心臓マッサージや電気ショック(除細動器)の是非について触れたとき、その方は少し微笑んでこう言われました。
「先生、人間も生き物だもの。いつか命が終わるのは知っているよ」
その言葉に、私は思わず言葉を失いました。
私たちのクリニックでは、「看取り」だけにとどまらず、治療で改善が見込めるものには積極的に介入し、患者さんの生活の質や時間の質を支える医療を大切にしています。だからこそ、日々「生きること」と「できる医療」の両方を意識しながら、ご本人やご家族と話を重ねてきました。
けれど、その方の言葉には、命の長さや医療の成否とは異なる、もっとも人間らしい視点が込められているように感じました。
病気と向き合いながらも、最期の時まで自分らしく過ごすこと。そのうえで「命には終わりがある」という自然な感覚を、静かに受け入れている姿に、私は胸を打たれました。
決してあきらめではなく、むしろ生きることへの深い理解と、力強さがそこにありました。
私たちは医療ができること、すべきことを尽くす中でも、本人の価値観や覚悟に寄り添うこと。それが、私たちが目指す「治す」と「看取る」の間にある医療なのだと、あらためて気づかされた出来事でした。
